投獄完了
躁状態のまま病院を退院。主治医が言うには「ほぼ治りましたね」らしい。
退院後、何をしていたかは前回書いた通り。
いつものように遊び惚けてから夕刻頃に帰宅すると、両親がテーブルに座っていた。

自分もテーブルの椅子の一つに腰をかけると、両親が胡散臭い笑顔で話を切り出し始めた。
「前のS病院とは違う、新しくて評判の良いM病院を紹介してもらったから試し行ってみるかい?」
と聞かれたので、俺は はいいきます と答えた。

その時の俺の思考はこうだ。
新しい病院→他の向精神薬も試せるかもそしてもっと幸せになれるかもはいいきます だ。
もう完全に薬物依存である。

それに「もっと幸せになれるかも」とは書いたが、
これは薬によって与えられただけの偽の幸福(な気分)であり、
この時の俺は、内定取消留年決定していて、普通ならとても幸せとは言えない状態だった。

それと両親共に妙に笑顔だったのは、些細な事で激怒して物に当たるような躁状態の俺を
刺激しないように、ということだろう。

親の車でM病院に向かう。
車内で5秒間隔で両親に話し掛けるが、どちらも反応が薄い。というかほとんど相手にしてくれない
家で新しい病院の事を話していた時とはうって変わって、少々厳しいくらいの表情だった。

M病院に到着。17:00頃に外来の受付を済ませ、18:00頃に診察が開始された。
この診察の時、自分は嘘を含めて、随分と過激な発言をしてしまったらしく、
気が付いたら後に主治医となる医師と両親が医療保護入院の話をしていた。
いや、元から医療保護入院させるつもりでM病院に連れてきたのだろう。

この時は保護入院の知識など自分は微塵も持っていなかったが、
何となくこれは嫌な響きできっと良くないことだという予感がした俺は

よし、ダッシュで逃げよう

最悪の選択を試みたのだが、後ろを振り返ると5名の看護士婦長さんが立ちはだかっており
逃亡は不可能だった。いやむしろ逃げることができなくて結果的には良かったのだが。
大体逃げて何処へ行くんだ。

保護入院の為の書類の記入が終わったらしく、医師が看護士達にを連れていけと命令する。
看護士5人に囲まれ、逃げる隙などまったく無い状態で、そのままどこかへ連行させられる。

まぁ、看護士さん方は囲んではきたが、対応は丁寧だった。
ただ抵抗したら無理やり引っ張っていかれただろう。

着いた先は牢屋・・・ではなく保護室

保護室に入れられ、寝巻きに着替え、地面に固定されているような変な珍布団に寝かされる。
この布団、拘束具オプションみたいな形で付いていたのだが、
看護士が「こちらの判断で、これ(拘束具)は付けません」と言って外してくれた。

そして看護士の方々は「もう少ししたら晩御飯が来るよ。大人しくしててね
と言い残して去っていきました。

寝ながら現在の状況を考える。
そして当たり前のことだが、自分が躁状態でしでかしてきた事を思い返す
ここに入れられるのも当然だよな、と思ったがまだ薬が強く効いているので
色々深く考えられなかった。

横になりながら、首を動かして辺りを見回す。

・部屋側面の全体をカバーするほどの巨大な鉄格子
 その一部が鍵付きの扉になっており、そこからだけこの保護室に出入り可能だ。
 もちろん自分の意思で出入りすることは不可能である。

・ステンレス製の便器がむき出しで地面に固定されている。
 水は自分で流せない。保護室を出てすぐの所にあるボタンを押すと水が流れる。
 これは看護士さんに押してもらわないといけない。
 つまり”出したら”看護士さんが来てくれるまで流せないでそのまま・・・

・天井には火災報知機とスクリンプラーらしきもの、そして監視カメラがある。

・おそらくここと同じ作りの保護室である隣と隣の部屋にも誰か居る。

保護室の外の通路のつきあたりに小さな窓が一つ。

保護室に入って環境が変わったからとはいえ、
この日の夕方までS病院の医師が処方した大量の薬を言われた通りに服用していたので、
まだまだ躁状態

そして監視カメラがあるのを知っているのにシャドーボクシングを始める。
数分で看護士さんが飛んできて「なにしてるの?」と聞いてきた。
俺「そわそわするのでシャドーボクシングしてました!」と笑顔で答える。
看護士「幻覚があるのかな?何か見えない敵と闘っているように見えたよ。
続けて
看護士「大人しくできないなら拘束具を付けないといけないね。」と脅されたので
大人しく寝ていることにした。

その内夕飯が看護士の手によって運ばれてきて、普通に全部食べていつの間にか寝る。
夜中、少し眩しくて目が覚めた。
何の明かりかと思ったら、突き当たりの小さな窓にちょうどが、
この保護室から見える位置に来ていた。

ボケーっとを眺めながら、隣の住人が何か一人で呟いていることに気が付いて耳をすませる。
聞き取れなかったのか、覚えていないのか、とにかく内容は覚えていないが
何かネガティブな事だったというのは覚えている。

そうこうしている内に再び眠りについた。

まどろみながらこんな風に思った。
明日から暗く冷たい、この保護室での生活が始まると思うと・・・
面白くなってきたぜ!」と、躁状態の俺はまだ反省する様子も無く、やはりまだまだおかしかった



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